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広東語(カントンご)は、言語の一種。香港と中華人民共和国の南部を中心に話される言語で、粤語(えつご)、香港語(ほんこんご)ともいう。現地では「廣東話」(Gwong2dung1wa2)または「白話」(Baak6wa2)などと呼ばれ、北京語では 「廣東話」(Guǎngdōnghuà)、「粵語」(Yuèyǔ) と言う。
概要
中華人民共和国の広東省の中心部、広西チワン族自治区の東南部から中部、香港とマカオの全域、および一部の華僑、華人の間で使用される。マレーシアとシンガポールにも多くの話者がおり、欧米やオセアニアの中国系社会でも主要な方言となっている。推定使用人口は8000万人。
香港では、テレビ、ラジオのメディアで使われている優勢言語であり、映画、演劇、歌謡曲でも広く使用されている。また、新聞、雑誌、Webサイトでも方言を使った文章が広く書かれており、これを表記するための方言字も多く作られている。
なお、広東省内でも、東部、北部、西部には閩南語や客家語が優勢な地域が広がっており、中部でも中山市などにこれらの方言島が存在する。
韻母の体系にタイ語やチワン語などと共通する特徴がみられ、古中国語の語彙が残存している比率が他の方言よりも高いため、もともとはタイ語系の基層の上に、古中国語がかぶさってできたクレオール言語であったと考えられる。音韻的にも入声や鼻音韻尾を有し、白文異読が少ないなど、中古音との整合性が高い。
一方で、広州は清代から他の地域に先駆けてイギリスなどの外国との接触が始まったため、英語からの借用語も少なくない。特にイギリスの植民地支配を長く受け、英語を併用していた香港の広東語には、英語からの借用語が多く使われている。同様にポルトガルに統治されていたマカオの広東語には少量のポルトガル語からの借用語がある。
統語論的には、オーストロ・アジア語族の言語と同じように、修飾辞が被修飾辞の後ろに付く単語(「鷄公」、「椰青」、「豆腐潤」など)が少なくないこと、二重目的語の順序が異なること、数詞を伴わない量詞(類別詞)で名詞を限定するなど、他の中国語の方言と異なる部分がある。(なお、前記の逆修飾は古中国語でも見られる。「舜帝」→「帝舜」など。)
唯、発音・文字からして、ヨーロッパ人からは距離が非常にある言語として、欧州の人から見て習得が最も困難な言語のひとつであり 又、世界で最も多くのアルファベット数を使う言語として見る事も出来る。
下位方言
広東語の内部には以下の下位方言が含まれる。本項の説明では、これらの内、主に広州市街および香港市街の粤語について記述している。広州、香港ともに郊外には、発音や語彙の異なる下位方言(番禺話や圍頭話など)が用いられている地域がある。広州市街の方言は、以下の各下位方言を含む広東語地域における標準語としての役割を果たしている。
- 粤海方言片
- 広州方言(廣州話、廣府話、省城話)
- 香港粤語
- 南番順方言(南海話、番禺話、順徳話)
- 中山方言(中山話、石岐話)
- 莞宝方言片
- 羅広方言片(肇慶話)
- 四邑方言片(台山話)
- 高陽方言片(陽江話)
- 桂南方言片(広西話)
- 邕潯粤語(南寧話)
- 梧州粤語(梧州話)
- 勾漏粤語(玉林話)
- 欽廉粤語(欽廉話)
- 呉川話(湛江話)
- 疍家話(水上話)
- 論争が行われている方言片
- 龍門本地話(客家語に入れる説もある)
- 儋州話
- 平話(広東語と対等の大方言とする説もある)
発音
香港市街の広東語を例に説明する。この項目ではYale式の声調表記を番号に変えて発音を示している。国際音声字母(IPA)には[ ]を付けて示し、表には該当する漢字の例を付す。
広東語の音節は、他の中国語同様に声母(語頭子音)、韻母、声調に分ける事ができる。
声母
現代の香港の広東語の例では、下記の表に示す19種に加えて0声母を加えた計20種の声母がある。
広東語(香港標準粤語)の声母表
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両唇音 |
唇歯音 |
歯茎音 |
後部歯茎音 |
硬口蓋音 |
軟口蓋音 |
声門音 |
| 非円唇 |
円唇 |
| 閉鎖音 |
無声無気音 |
b [p] 巴 |
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d [t] 打 |
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g [k] 加 |
gw [kw] 瓜 |
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| 無声有気音 |
p [pʰ] 怕 |
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t [tʰ] 他 |
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k [kʰ] 卡 |
kw [kʰw] 誇 |
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| 鼻音 |
m [m] 麻 |
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n [n] 乸 |
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ng [ŋ] 牙 |
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| 摩擦音 |
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f [f] 花 |
s [s] 紗 |
(s [ʃ] 紗) |
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h [h] 蝦 |
| 破擦音 |
無声無気音 |
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j [ts] 渣 |
(j [tʃ] 渣) |
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| 無声有気音 |
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ch [tsʰ] 茶 |
(ch [tʃʰ] 茶) |
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| 側音 |
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l [l] 啦 |
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| 接近音 |
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y [j] 也 |
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w [w] 話 |
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子音
上記の声母に加えて、広東語の子音としては入声の音節末に見られる内破音がある。内破音には両唇(-p [p̚])、歯茎(-t [t̚] )、軟口蓋(-k [k̚])の3種がある。また、非入声の音節末には両唇(-m [m])、歯茎(-n [n])、軟口蓋(-ng [ŋ])の3種の鼻音韻尾を持つものがあり、意味の弁別に使われている。
s-、j-、ch-は歯茎音で発音される場合と後部歯茎音で発音される場合があり、現在はこの違いは意味に影響しないが、20世紀前半までは意味の弁別に使われていた。
韻母
母音と音節末の子音の組み合わせである韻母は、50数種程度(借用語や擬音語にのみ見られる韻母などの数え方で異なる)ある。母音に長母音と短母音の対立があるなど、タイ語群の基層が残っていると考えられる。
広東語(香港粤語)の韻母表
| 韻尾 |
a |
e |
eu |
i |
o |
u |
yu |
複合母音 |
0母音 |
| 長母音 |
短母音 |
長母音 |
短母音 |
長母音 |
短母音 |
長母音 |
短母音 |
長母音 |
短母音 |
長母音 |
短母音 |
長母音 |
| 0 |
a [aː] 呀 |
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e [ɛː] 嘅 |
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eu [œː] 靴 |
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i [iː] 二 |
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o [ɔː] 痾 |
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u [uː] 湖 |
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yu [yː] 魚 |
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| -i |
aai [aːi] 嗌 |
ai [ɐi] 矮 |
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ei [ei] 幾 |
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eui [øy] 去 |
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oi [ɔːi] 愛 |
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ui [uːi] 會 |
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| -u |
aau [aːu] 拗 |
au [ɐu] 歐 |
(eeu [ɛːu] ) |
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iu [iːu] 要 |
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ou [ou] 澳 |
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(iau [iau] ) |
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| -m |
aam [aːm] 啱 |
am [ɐm] 暗 |
(em [ɛ:m] ) |
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im [iːm] 鹽 |
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(um [uːm] ) |
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m [m̩] 唔 |
| -n |
aan [aːn] 晏 |
an [ɐn] 銀 |
(en [ɛːn] ) |
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eun [øn] 信 |
in [iːn] 煙 |
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on [ɔːn] 案 |
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un [uːn] 換 |
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yun [yːn] 軟 |
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(n [n̩] ) |
| -ng |
aang [aːŋ] 罌 |
ang [ɐŋ] 鶯 |
eng [ɛːŋ] 靚 |
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eung [œːŋ] 香 |
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ing [ɪŋ] 應 |
ong [ɔːŋ] 戅 |
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ung [ʊŋ] 擁 |
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ng [ŋ̍] 五 |
| -p |
aap [aːp̚] 鴨 |
ap [ɐp̚] 噏 |
(ep [ɛːp̚] ) |
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ip [iːp̚] 頁 |
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(up [uːp̚] ) |
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| -t |
aat [aːt̚] 壓 |
at [ɐt̚] 訖 |
(et [ɛːt̚] ) |
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(eeut [œːt̚] ) |
eut [øt̚] 恤 |
it [iːt̚] 熱 |
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ot [ɔːt̚] 割 |
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ut [uːt̚] 活 |
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yut [yːt̚] 月 |
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| -k |
aak [aːk̚] 鈪 |
ak [ɐk̚] 握 |
ek [ɛːk̚] 踢 |
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euk [œːk̚] 腳 |
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ik [ɪk̚] 億 |
ok [ɔːk̚] 惡 |
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uk [ʊk̚] 屋 |
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声調
広東語は、他の中国語と同様に声調言語であり、広州や香港の発音では平声、上声、去声、入声が陰陽(高低)各1対と、陰入声がさらに高低に分かれて増えた中促調の、計9つの声調がある。他に、意味に違いはないが、陰平声を高平調で発音する事も多く、高平調、高昇調、高昇降調と3つの変調があるので、細かく分けると12種、または13種の声調があるとも言えるが、実際には基本的に6種類か7種類の調値を区別すればよい。
広東語(香港粤語)の声調表
| 声調番号 |
声調名 |
声調パターン |
調値 |
例字 |
Yale式 |
改Yale式 |
備考 |
| 第1声 |
陰平声 |
高降調 |
53 |
絲 |
sì |
si1 |
調値が53でも55でも意味に違いはない |
| 高平調 |
55 |
sī |
| 第2声 |
陰上声 |
高昇調 |
35 |
史 |
sí |
si2 |
|
| 第3声 |
陰去声 |
中平調 |
33 |
試 |
si |
si3 |
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| 第4声 |
陽平声 |
低降調 |
21 |
時 |
sìh |
si4 |
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| 第5声 |
陽上声 |
低昇調 |
23 |
市 |
síh |
si5 |
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| 第6声 |
陽去声 |
低平調 |
22 |
士 |
sih |
si6 |
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| 第7声 |
上陰入声 |
高促調 |
5 |
式 |
sīk |
sik1 |
第1声と同じ調値 |
| 第8声 |
下陰入声 |
中促調 |
3 |
錫 |
sik |
sik3 |
第3声と同じ調値 |
| 第9声 |
陽入声 |
低促調 |
2 |
食 |
sihk |
sik6 |
第6声と同じ調値 |
ここで示した調値は5度式であり、5が最も高く、1が最も低いことを表す。
広東語では、連続変調現象は多くなく、同一成分が反復される場合や、接頭語の「阿」の後に陰平調の語が続く場合や、単音節語を強調していう場合などに変調が起きる。単音節語の強調の場合、上昇後下降する変調である。
- 妹妹 mui6mui6 → mui4mui2 (妹)
- 阿 a3+ 王 Wong4 → A2wong2 (王ちゃん)
- 有 yau5 → yau2' (有るとも)
また、個別の語彙が陰上調に変調して意味を区別する例が少なくない。
- 女 neui5 (女) → 女 neui2 (娘)
白文異読
一つの漢字に「白読音」(口語音)と「文読音」(文語音)が有る例はさほど多くないが、個別の字では見られる。
白読 : 文読
- 名 meng2 : ming4 (名)(同様の例:青、正)
- 斷 tyun5 : dyun6 (切れる)
白読音で読ませるために別の漢字が作られ、方言字となっている場合もある。
- 嚟 lai4 : 來 loi4
- 埗 bou2 : 埠 bou6
懶音
香港を中心として次のような現象が多くみられ、否定的なニュアンスを伴って「懶音」とよばれる。
- 頭子音のnがlに変化する 例:「你 nei5」(あなた)→「lei5」(=李)
- 頭子音のngが脱落する 例:「愛 ngoi3」(愛)→「oi3」
- gwoがgoに、kwoがkoに変化する 「廣東 Gwong2dung1」→「Gong2dung1」
- 音節末のngやmがnに変化する
語彙
語彙の特徴
古語
広東語の語彙には北京語と比べて、古中国語と共通する語彙が多い。
広東語 : 北京語
- 食 sik6 : 吃 chī (食べる)
- 飲 yam2 : 喝 hē (飲む)
- 徛、企 kei5 : 站 zhàn (立つ)
- 行 haang4 : 走 zǒu (歩く)
- 面 min6 : 臉 liǎn (顔)
チワン語との関連語
広東語にはチワン語と関連すると思われる語彙がいくつか見られる。基層となっている語彙なのか、借用語なのかは不明である。これらの多くは方言字で書かれる。
広東語 : チワン語
- 啲 di1 : di (少し、もっと、割に)
- 曱甴 gaat6jaat2 : gaenxcaengh (ゴキブリ)
- 冚 kam5 : hoemq (かぶせる、覆う、蓋をする)
- 踎 mau1 : maeuq (しゃがむ)
- 啱 ngaam1 : ngamj (ちょうど良い、正しい)
- 呢 ni1 : neix (この)
- 痾 o1 : ok (排泄する)
- 嘥 saai1 : sai (無駄にする)
借用語
広東語には英語からの借用語が多い。これは、清代からイギリスとの接触を持ち、ピジン英語が話されていた時代もあったことと関係がある。また、香港は99年間のイギリスによる統治を経て、さらに英語からの借用語が増えた。
英語からの借用語
英語からの借用語はかなり多いが、常用されるものの例を挙げる。
- 亞摩尼亞、阿摩尼阿 a3mo1nei4a3 : ammonia (アンモニア)
- 巴士 ba1si2 : bus (バス)
- 波 bo1 : ball (ボール、風船)(英語のballは男性の睾丸という意味も含むが、広東語ではそういう意味はなく、広東語の「波」は女性の乳房という意味を含んでいる。)
- 杯葛 bui1got3 : boycott (ボイコット)
- 暢 cheung3 : change (両替する)
- 的士 dik1si2 : taxi (タクシー)
- 多士 do1si2 : toast (トースト)
- 菲林 fei1lam2 : film (フィルム)
- 吉列 gat1lit6 : cutlet (カツレツ)
- 基 gei1 : gay (ゲイ、レズビアン)
- 忌廉 gei6lim1 : cream (クリーム)
- 芝士 ji1si2 : cheese (チーズ)
- 茄士咩 ke1si6me1 : cashmere (カシミヤ)
- 曲奇 kuk1kei4 : cookie (クッキー)
- 咪 mai1 : mic (マイク)
- 咪 mai1 : mile (マイル)
- 文 man1 : money (マネー)
- 三文治 saam1man4ji6 : sandwich (サンドイッチ)
- 士多 si6do1 : store (食料品店などを売る雑貨店)
- 士多啤梨 si6do1be1lei2 : strawberry (ストロベリー)
- 貼士 tip1si2 : tips (チップ(心付け)、ヒント)
香港ではイニシャル化したり、音をアルファベットに当てて借用する例もある。
- 開P hoi1pi1 : 開 party (パーティーを開く)
- Q版 kiu1baan2 : cute 版(キュート版、デフォルメ版)
日本語からの借用語
日本語からの借用語の例を挙げる。
- 刺身 chi3san1 : 刺身
- 媽媽生 ma1ma1saang1 : (バーの)ママさん、管理売春する女
- 壽司 sau6si1 : 寿司(和製漢語からの逆借用)
- 卡拉OK ka1la1ou1kei1 : カラオケ
- 寫眞集 se2jan1jaap6 : (ヌードの載った)写真集(和製漢語からの逆借用)
- 榻榻米 taap3taap3mai5 : 畳
- 鐵板燒 tit3baan2siu1 : 鉄板焼き(鉄板は漢語)
- 人氣 yan4hei3 : 人気(和製漢語からの逆借用)
- 物語 mat6yu5 : 物語
- □□□ wa4sa1bi6 : わさび
- 烏冬 wu1dung1 : うどん
ポルトガル語からの借用語
マカオの広東語にはポルトガル語からの借用語がいくつか見られる。
- □□ mi1go6 : amigo (友だち、黒人兵士)
- 窿丁 lung1ding1 : não tem (無い)
- 馬介休 ma5gaai3yau1 : bacalhau (バカリャウ、鱈の塩辛い干物)
- 梳巴 so1ba1 : sopa (野菜スープ)
被借用語
日本語中の被借用語
日本語における広東語からの借用語には以下がある。
英語中の被借用語
英語における広東語からの借用語には以下がある。
- bok-choy (白菜 baak6choi3) (パクチョイ)
- chop suey (雜碎 jaap6seui3) (チャプスイ)
- chow mein (炒麵 chaau2min6) (焼きそば)
- conpoy (乾貝 gon1bui3) (乾し貝柱)
- cumquat, kumquat (金橘 gam1gwat1) (キンカン)
- kowtow (叩頭 kau3tau4)
- kungfu (功夫 gung1fu1) (カンフー)
- loquat (蘆橘 lou4gwat1) (ビワ)
- tong (堂 tong4) (秘密結社)
- wampee (黄皮 wong4pei2) (キンカン)
- wok (鑊 wok6) (中華鍋)
- wonton (雲呑 wan4tan1) (ワンタン)
語法
語順
基本文型
基本の語順はSVO型である。
- 我 食 蛋糕。 : 私はケーキを食べる。 (主語+動詞+目的語)
例外として、目的語を主題として、先に提示する事がよく行われる。
- 蛋糕, 我 食! : ケーキは私が食べる! (主題化された目的語+主語+動詞)
また、補足的に文法成分を後に付け足す言い方が、他の方言よりも多く見られる。
- 佢 食緊 蛋糕,我 諗。 : 彼はケーキを食べている、私が思うに。 (目的語となる句+主語+動詞)
修飾語の位置
修飾語は被修飾語よりも前に置くが、個別の語彙においては修飾成分が後置される例もある。
- 青 沙律 : グリーンサラダ (修飾語+被修飾語)
- 青菜 : 青菜 (修飾成分+被修飾成分)
- 椰青 : 青い椰子の実 (被修飾成分+修飾成分)
比較表現
北京語もしくは普通話とは違う語順となる。
広東語 : 北京語
- 我 高 過 佢 : 我 比 他 高 (私は彼より高い)
間接目的語の位置
北京語もしくは普通話とは違う語順となる場合が多い。(以下の例では「你」が間接目的語)
広東語 : 北京語
- 我 畀 錢 你 : 我 給 你 錢 (私はあなたにお金をあげる)
- 我 對 你 唔 住 : 我 對 不 起 你 (私はあなたに顔向けできない)
繋辞
繋辞として「係」(hai6)が用いられる。「係」は中国語の書面語に表れることがある古語である。
「係」は肯定の返事にも用いられ、日本語の「はい」の語源という説もある。 書面語では中国語共通の「為」や「是」も用いられる。
副詞
通常動詞よりも前に置かれるが、ベトナム語にみられるような、動詞の後に置かれる副詞「先」や「添」などがある点が北京語などと異なる。
- 我 慢慢 食 飯 : 私はゆっくりご飯を食べる (主語+副詞+動詞+目的語)
- 我 食 飯 先 : 私が先にご飯を食べる (主語+動詞+目的語+副詞)
- 我 食 飯 添 : 私はご飯も食べる (主語+動詞+目的語+副詞)
補語
方向補語、可能補語、結果補語など、動詞の後に補充する成分がある点は北京語などと同じである。
- 行 出去 : 歩いて出て行く
- 食 唔落 : 呑み下せない、食欲がない
類別詞
中国語で「量詞」と呼ぶ類別詞が発達しているのは中国語共通であるが、北京語とは異なる類別詞を使うものがある。
広東語 : 北京語
- 張 jeung1 : 把 bǎ (脚:椅子を数える場合)
- 把 ba2 : 口 kǒu (声を数える場合)
- 單 daan1 : 件 jiàn、起 qǐ (件:事件、商売などを数える場合)
- 身 san1 : 頓 dùn (発:体を殴る回数を数える場合)
類別詞の前に数詞を伴わず、特定化のためだけに使うことが行われる。
- 佢 有 一 架 車 : 彼は車を一台持っている
- 架 車 係 佢 嘅 : あの車は彼のだ
語気助詞
中国語の中で最も豊富な文末語気助詞を持ち、100種以上が常用されている。 例:
- 呀 a3 : 断定、強調、説明、疑問、反復など多くの語気の表わし、最も多用される
- 㗎(口へんに架) ga3 : 疑問、説明を表す
- 咩 me1 : 意外さや驚きを込めた疑問を表す
- 啩 gwa3 : 推量を表す
文字
香港では広東語は繁体字で書かれるが、広東省では簡体字の普及が進んでいる。またマカオでも中国への返還後簡体字の普及が進んでいる。広東語に特有の語彙を書き表すための方言字が発達しており、もともとは粤劇の台詞などを書き残すのに考案されたと考えられる。異体字も少なくないが、現在は、多くの字で自然に選別が進んで、香港の新聞や雑誌に使っても十分に理解されるものが多い。香港では香港増補字符集と呼ばれる、広東語の表記に必要な方言字などを補充する、コンピュータ用の文字セットが作られ、使用されている。
発音表記
広東語の発音表記は統一されておらず、書籍毎に異なる表記が用いられている。香港の英語書籍ではイェール大学のイェール式広東語ピンイン及びその変形が比較的多く使われている。香港の字書ではIPAを簡略化したもを使用している事が多く、また教育機関では教院式が使われており、他に粤拼と呼ばれる香港語言学会の方式も広がりを見せている。中国大陸では、広東省教育部門の試案かIPAを使っている例が多い。日本では、これらの他、千島式(2種)などがある。ネット上では、本項で使用した、Yale式の声調表記を数字に改めたものがASCII文字だけで打てて簡便なため、比較的多く使用されている。
外部リンク
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